小浜の鯖、復活せよ! ウェーブ(波)とウェブを乗りこなす鯖IoTの挑戦

小浜市。

福井県の南西部、琵琶湖の北側に位置し、リアス海岸としても知られる若狭湾、その内湾としての小浜湾に面する日本海の要港だった。今はその勢いがない。1980年以降減少傾向が続いてきた人口は29,534人(2018年5月現在)と3万人を割っている。

小浜は北陸圏域の福井県にありながら、風俗、習慣、言語などは近畿圏域に近い。福井県は福井市のある嶺北地方と小浜市のある嶺南地方があるが、嶺北は北陸電力、嶺南は関西電力圏だ。また福井県嶺南地方は原子力発電所の密集地帯としても知られるが、海を隔てた目の前、10キロに満たない地点にに原子力発電所がありながら、小浜市内の原子力発電所はゼロだ。

日本海の幸を運んだ若狭の鯖街道

若狭の特産品としては、若狭塗、若狭かれい、若狭ぐじなどがある。だが、あまりにも有名なのが鯖だ。古くは1700年代、能登半島沖の鯖漁が不振となったのを受けて若狭の鯖が有名になり、行商人がそれを当時の都、つまるところは京都まで運んだ。

「京は遠ても18里」と言われるように距離として約72キロ。遠いけれども近い京都に丸一日かけて届けられる鯖は、冷蔵技術がなかった当時でも、塩でしめて京都に着くころにはちょうどいい塩加減になっていたとも伝えられる。

  • 鯖街道の起点とされる小浜市いづみ町商店街

  • かつての魚市場エリアだが、今の商店街は、シャッター街に近い状態

鯖以外にも、さまざまな海産物を都に運んだ鯖街道、実にその起源は平城京の時代に遡るとか。小浜市は奈良・二月堂の「お水取り」の水を送る「お水送り」の地でもあり、姉妹都市でもある奈良市との深い関係が想像できる。そのため小浜は「海のある奈良」とも呼ばれている。

そもそも奈良時代以前から若狭地帯は天皇家の食料を送る「御食の国(みけつくに)」でもあった。かつて栄華を極めた小浜周辺は国宝の密集地帯でもある。平安時代以降は海上交通の要地となり、大陸や朝鮮半島を含む各地から文化や品物、大勢の人が行き交う地でもあった。

  • 鯖を丸ごとグリルで焼く名物「焼鯖」。焼き上がりまでは30分ほどだ。これをしょうがと醤油で食べる。サイズにもよるが一尾1,200円程度から

鯖の漁獲量が激減、立ち上がったのは……

さて、そんな小浜の鯖だが、かつて「海の底から湧いてくる」と言われるほど鯖が大量に獲れた時期があった。1974年には、小浜市田烏だけで3,580トンの鯖の漁獲があったという。ところが近年、乱獲等の影響で全国的に鯖の漁獲量が減るにつれ、小浜市の漁獲量も激減し、2015年の漁獲量は1トン未満までに落ち込んでしまった。

今、小浜名物としてさまざまな鯖の加工品が売られているが、そのほとんどはノルウェー産の鯖を使っている。そのことを深刻な事態として受け止めた小浜市は、鯖の食文化の新たな展開による産業振興や誘客促進による地域活性化を目指し、「鯖、復活」プロジェクトを開始した。2017年7月には、ICT/IoTの利活用による成功モデルの普及展開を図る地域の先導的な取り組みを推進する総務省の「情報通信技術利活用事業費補助金(地域IoT実装推進事業)」に「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクト」として採択され、公募によってクラウド漁業社とKDDIらが受託者として決定した。

養殖いけす×IoT。iPadで「経験と勘」をデータ化

そして、2017年11月。小浜市、クラウド漁業社、小浜市漁業共同組合、福井県立大学、KDDIが鯖の復活を期して産官学が結集した。小浜市田烏地区に養殖いけすを設置し、ICT/IoTを活用することで効率化を図ろうという試みだ。こうしてKDDI総合研究所とKDDIビジネスIoT推進本部地方創生支援室が実装事業実施に係わるノウハウやシステム設計、測定機器、アプリケーションといった面を支援する試みがスタートした。

本格運用が始まってほぼ1カ月。プロジェクトは現状の運用状況を公開した。養殖いけすの水温、酸素濃度、塩分濃度を1時間ごとにデータ送信し、そのデータを蓄積、専門家アドバイザーらの指示にしたがって給餌量などを決定、漁師はそれにしたがって給餌し、その場所や漁、タイミング、鯖の様子などをiPadで入力して送信する。これによって経験と勘でしか得られなかったノウハウをデータとして得ようというわけだ。

夏場は30度を超えるといういけすの水温。風向きでも水温は刻々と変わる。鯖の生態についてはわかっていないことも多く試行錯誤の連続だともいう。高水温下で鯖が死んでしまう危険を回避する方法は、餌をやらない方法をとるしかないらしい。それが経験とカンだけで行われてきたのがこれまでのいけすだ。

  • 中心になってプロジェクトを担当する小浜市産業部農林水産課水産振興グループ主事の濱本圭祐氏

  • iPadを型からぶら下げていけすを観察する漁業者、浜家直澄さん。給餌の際には必ず鯖たちに声をかける。「たくさん食べろー」

2018年は1万尾の鯖で養殖をスタートし、テストしながら海面環境の把握に努めるという。鯖のサイズにもよるが、一尾あたり500gとしても現状5トンだ。このプロジェクトによって、船を出さなくてもいけすの状況が把握できるようになり、iPadを漁師が使うことで作業は省力化され、かつての手書き日報はデジタル化された。

  • かつては温度計や各種のセンサーの示す値を実際の目で確認し、書類に記入してファクスで送信していた

  • センサーからのデータがこの装置に送られる。中味は通信機能付きのコンピュータ。1時間に一度、データを送信する。電力は太陽光でまかなわれている

ノルウェー産の鯖はカルビ、小浜の鯖はロース

漁師の「いけす鯖飼育と漁」のプロセスはファクスを使って市側とやりとりされていたが、今回のプロジェクトによってデジタル化、市側もリアルタイムで状況が把握できるようになった。当初は抵抗もあったが今は慣れ、作業の省力化も実感していると、漁業者の一人、浜家直澄さんは話す。

また、システム実装のために、まさに移住に近い状態で現地に張り付いて作業していた、クラウド漁業社の横山拓也氏は「ノルウェー産の鯖は確かにうまい。油がのっていて焼くと特にいい。だが、刺身にするにはちょっとくどい」という。焼肉でいえばカルビとロースのような関係だとも。そんな絶品の鯖が豊富に手に入るようになる日も近い。

  • シンプルなUIでデジタル日報が作れる。最初は抵抗があったが慣れればこっちがいいという

近年、鯖をもって行商人が歩いた街道は「鯖街道」と呼ばれるようになった。現在、ここを通る公共交通機関はなく、ほぼ70キロの道程を使って鯖が運ばれることもない。鯖街道の起点としての小浜が面目躍如できるかどうかがこのプロジェクトにかかっている。

ちなみに小浜駅は北陸新幹線の京都に向かうルート上の駅としても確定した。今はバスを使って滋賀県の近江今津に出て、さらに琵琶湖西を通る湖西線電車で京都までトータル2時間程度。丸一日かかった往事とは比較にならないくらいの短い時間かもしれないが、新幹線はこれをたった19分間に短縮する。ただし着工は2031年で15年かけて2046年に開通予定だ。気が遠くなるほど未来の話だが、小浜が鯖の産地として復活するまでに、そこまで時間はかからないはずだ。

  • 取材は夕刻までいられなかったので、15年ほど前に撮った小浜湾の夕陽を資料写真としてごらんあれ。よく見ると関西電力大飯発電所の送電用鉄塔が見える

引用元:この記事を読む

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